ZOKEI賞選抜作品展

写真専攻領域

野口 夏輝

《拾集1968-2020》

2021年

2017年の夏、大阪に住んでいる父方の祖父母が新しい家に引っ越すという話を聞いた。前の家から歩いて5分ほどの、倉庫として使っていた場所を取り壊し新しい家を建てるそうだ。前の家は祖父母が結婚した時に建てたもので、毎年夏休みと冬休みには両親に連れられ帰っていた私にも馴染みの深い家だったが、祖父母は新居に引っ越し、家だけが残された。


次の年の春休み、私は廃墟を見に行くような好奇心でその家を訪ねた。引越しを機にかなりのものを処分したと聞いていたが、冷蔵庫や食器、タンスの引き出しの中まで多くのものはそのまま残されていた。3階建ての家を隅から隅まで写真に収めていく中で特に目を惹かれたのが祖父母の収集物である。ものを選び、集め、飾るという行為にはその人物の性格や歴史が反映されている。その場にただ残されたものたちも、祖母や祖父が一つ一つ選び、集め、飾ったものである。


この写真集はそんな祖父母の収集物を孫の私自身が選び、集め、飾ったものである。

教員評価

教授

中里 和人

祖父母の引っ越しを契機に、それまで祖父母が住んでいた古い家の存在が気になりだし、そこに有った膨大な祖父のコレクションの撮影が始まった。足かけ3年に及ぶ拾集物の撮影を通じ、作者は自分の記憶と祖父の存在証明とを繋げ、モノクロとカラー二冊の写真集に記録、表現した。モノクロで丹念に観察撮影された写真集では、拾集物の中から厳選されたイメージが、手触り感の強い物質に還元され定着されている。カラーのZINEでは、拾集物が分類編集され、祖父の脳内を巡る玉手箱のような構成になっている。どちらも優れたエディトリアルデザインに裏打ちされ、祖父の拾集物の総体が、人間の存在証明にまで昇華された優れた作品となっている。