授業関連 粟野由美

ダイアログ・イン・ザ・ダーク体験記予告

2年生の前期科目「メディアデザイン研究A」は、専攻領域専門科目のことはじめとして、また、ことの行く先までも思い描いてみることで2,3,4年生の間の科目学習の意味や役割を理解し、目標と見通しをもって履修することができるようになる目的で「社会で機能するメディアデザインを実地体験する」内容を含んでいます。
「メディアデザイン専攻領域って何を勉強するの?」「技術を習って何の役にたつの?」「卒業後は何をしたらいい?」…そんな疑問や不安を解決していくための知識を得る授業です。
2001年から(2003年の学科改組前の当時は別の科目名で)始めたこの内容、これまでも様々な施設、研究所、大学、企業を訪問し、研究者、教育者、プロデューザー、クリエーターの方々にお話をうかがい、その都度大変お世話になってきました。
毎年の課題としてのまとめだけでなく一度総覧するまとめをしなければ、と思っています。

その枠で、2009年度は『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』を体験に行きました。

その内容を中心とした報告書「ダイアログ・イン・ザ・ダーク/視覚遮断状況における知覚と行動についてーーマルチモーダル・アクセシビリティ・デザインの素養として」が載録された東京造形大学研究報11号が去る4月に発行されました。

もう手に取ってくださった方もあるかと思いますが、何かと報告(自己申告)が後手後手ですみません。

この原稿を入稿してサンフランシスコに渡った2週間後に、ダイアログ・イン・ザ・ダークの発案者であるアンドレアス・ハイネッケ博士とともにプログラム・デザインを作り上げてきたオルナ・コーエン女史がエクスプロラトリウムを訪問され、ダイアログ・イン・ザ・ダークを含む”ダイアローグ”シリーズのコンセプトの講演をなさいました(本拠地ダイアログ・イン・ザ・ダークのサイト)。コーエン氏は、パリ郊外のラ・ヴィレット(La Villette) にある科学・産業館シテ(Citi)の展示デザインもなさった方です。国内外出張すると必ず当地の科学系博物館を視察する(むしろ美術館よりも!)私が訪れた中でも当時斬新な印象であったシテ。そのコーエン氏と事前のアポなしで遭遇し、書き降ろしほやほやの報告書の内容を議論するという機会に巡り会ったのは、何重の意味でもセレンディピティ!な出来事でした。
ちなみに、エクスプロラトリウムの展示室にも「tactile dome」という暗闇体験ドームがあります。

ダイアログ・イン・ザ・ダークは複数名のコミュニケーション能力開発を目標にあげていますが、この報告書では、ユニバーサルデザインのひとつの方法であるマルチモーダル・アクセシビリティのコンセプト、デザイン初期教育に重要な“気づき”の開発ワークショップ事例を並記しながら、”感覚交換”や”疑似体験”の新奇性、真摯性にとどまらず、もう一歩踏み込んだ(踏み外した?)先で、感覚遮断時の体験世界について時間・空間の知覚心理学からの分析を試みました。
暗闇は、恐怖か、安らぎか。
冷や汗かきながら知覚心理学界の恩師方に目を通していただき、なんとか、セーフ…。

体験した学生の皆さんには、前期のまとめサイト課題の中で各自の”得たもの”を報告してもらいました。
ダイアログ・イン・ザ・ダーク体験そのものが何かの役に立つ、というより、この体験とそれへの分析を通して自分の感覚解像度を上げるワーク・アウトと理解してもらえれば、ここで租借したことは抽象的な栄養となって、皆さんの人間力を少し高めることになるんじゃないかな、と期待しています。

この内容もまた、後日ゆるりゆるりとブログに報告していこうと思います。

研究報は図書館で閲覧できますし、教務課でもらうこともできますので、是非手に取ってご一読ください。