展示作品一覧

グラフィックデザイン

三浦 乃瑛

≪この国の言葉≫

 私たちが普段当たり前のように使っている日本語という言語は、世界に類を見ない複雑な言語であり、日本文化の詰まった美しい言葉です。例えば一人称ひとつ取ってもその表現の仕方は様々で、どのような言葉を選び扱うかで、その人の人となりや印象、イメージを決定付けます。ですが、日本語を扱う多くの人々は、自分たちの国の言葉が美しいと思って使ってはいません。言葉は、その人を包み込んで形作るその人の一部であるのに。自分たちが扱っている言葉、日本語が、元来美しいものであると認識してほしい。言葉について考えるきっかけとなりたい。そのような想いから、言葉のイメージをタイポグラフィに落とし込み、さらに日本の伝統であり使い方も豊富な手拭いという形で制作しました。

写真

原田 涼太

≪中京≫

 日本の中央に位置する日本三大都市の一つ、名古屋を中心とする都市圏のことを中京圏と呼ぶ。中京とは明治時代に東京と京都の中間に位置する名古屋をその二都市に劣らない都市にしようと当時の名古屋地域の人たちが提唱したものである。以前は名古屋市を中心に半径40km圏内が中京圏とされていたが今では交通インフラが整備されたことによりエリアが年々と広がり近年では私の生まれた町も含まれるようになった。私自身では愛知、三重、岐阜の東海三県にまたがる濃尾平野35km以内こそが中京であると漠然と思っており、今作品ではその円の中を歩いた。代表都市である名古屋市や圏域内である豊田市などは想像に容易いのだがその他の郊外である多くの街を含んだ中京というものは明確なイメージがなく不明瞭なものである。

映画・映像

小林 花観

≪15センチのノート≫

 「昨日のお昼ご飯は、誰とドコで何の話をしながら食べましたか?」きっと誰と何を食べたかは覚えていると思います。しかし何の話をしてなんであんなに大笑いをしたのかは覚えていないと思います。ただ楽しかった。私にはそんなかけがえのない瞬間、確かにあったはずなのに楽しかったのに覚えていないものがたくさんある。忘れたくないとか、終わりたくないというものは必ず終わります。それが些細なことであればあるほど。私の手の中に大切に持っておきたい記憶たち、今の考えを残しました。

アニメーション

松本 悠里

≪tiny world≫

 ただそこに置いてある物にも実はひとつひとつに命が宿っていて、様々な想いを持っているのかもしれない。たくさんの物語が生まれては消えているのかもしれない。これは、そんな小さな世界を少しだけ覗いた作品です。音楽に合ったアニメーションを作りたい、という気持ちからこのアニメーションを作りました。音楽を聴きながら想像をふくらませることで、雰囲気やリズムがシンクロすることを目指しています。音と映像がぴったりハマると気持ちがいいと思うので、少しでもその感覚を感じてもらえたら嬉しいです。

室内建築

松村 歩夢

≪wave chair≫

 木工制作において物を造形する手段として「燃焼」を用いることができないかという研究。着想としてマーティンバースのsmokeシリーズとそのインタビューを利用しており、彼の制作後に炭化させるという技法と差別化したことは木工過程の造形手段で燃焼を用いたことである。火を用いた技法として建築の壁面加工に用いる焼き杉やDIYなどでガスバーナーを使った表面塗装などがあるが、それはあくまで平面加工の技法であり立体造形においての燃焼は前例がsmokeシリーズのみであった。その為、留意点として新たに技法を提案する上で立体造形に関わらない平面塗装に燃焼を用いてはならず、すのこ板のような薄い軽量な木材の集合体を作り、燃やした時の火炎の誘導や消化後に生まれた形状を何度かの実験からある程度計算し、立体造形に深く関わるように研究を行った。材木は檜を使用しており、集合体になり高密度の状態でも軽く、水分が多く燃焼させた時に引火しやすくすぐに炭化、崩壊しにくいものを選んだ。成果物の命名においては、この研究があくまで技法の研究である為、火炎や燃やすという行為を連想させる言葉は用いず、その高波のような形状と水という不定形の素材から形作られた波の唯一性に近しいものを感じwave cheirと名付けた。

インダストリアルデザイン

丸山 真奈

≪Livico (living connect)≫

 Livico(=living connect)は、離れて暮らす家族が、互いのリビングの様子をそれとなく伝えあうことができる、新しいコミュニケーション・ツールです。リビングのクッション、絨毯、カーテンに設置したIoTセンサで、遠くに暮らす家族の活動の様子をセンシングし、リアルタイムで自分のリビングにある表示系に表示します。みなさんには離れて暮らす家族がいますか?特に一人暮らしの家族がいると、何かと心配なものです。それは一緒に暮らせば伝わった日々の様子、例えば、「今日は早起きできたのね」「バタバタして忙しそう」「無事帰宅したのね」などのノンバーバル(非言語)な情報を共有することができないからです。Livicoは「クッションに座った」「カーテンを開閉した」「絨毯を歩いた」等の情報をインターネットを通じて送信し、それを動物(蝶々)の動きをモチーフにした灯りに変換して表示します。リビングを歩くと相手側の灯りの蝶々が羽ばたき出す、クッションに座ると蝶々が花に止まる、等。人の動きを自然の風景に変換することで、プライバシーを守りつつも、いつでも存在を近くに感じることができます。またその灯りをルームライトや時計とドッキングさせることで、普段の生活に無理なくフィットするプロダクトとして仕上げました。

テキスタイルデザイン

小野寺 幸那

≪geo cut.≫

 大きな柄の布を裁断して小さく切り取ると、元の柄とは違った見え方をする。例えば、縦縞模様の布を長方形に裁断するとき、斜めにトリミングして切ると、切り取られたそれは斜めの縞模様に見える。これは至ってシンプルなことだが、私はそこにテキスタイルデザインの大きな魅力を感じる。柄のデザインは、それぞれの型紙の形から着想を得ている。正円や長方形などのシンプルな図形を元に構成して、世界観を統一した。このことから、geometric cut(幾何学形体に切る)→geo cut.と略した造語のタイトルを付けている。この作品を見て、元の柄とトリミング(裁断)された状態の差異の面白さを感じて頂けたら幸いだ。

絵画

宇野 慧子

≪m.o.e≫

 私の卒制テーマは制作していく中で自分を知ることです。自分を知っているということは制作や他者に向けて話をする時に重要なことだと考えています。私は今まで自分のこと、作品のことを考え、言葉にすることを後回しにして絵を描く楽しさだけを感じていました。しかしそれでは他者に自分を共有することはできず、自分の中にしか作品がない事に気がつきました。なので、卒業制作という区切りで私は自分のことを理解したいと思いこのようなテーマで制作しました。卒業制作として一年間、何を考え、思いながら制作しているのかと考えながら制作し、少し自分のことが分かりました。でもそれは今の私が見つけた自分で、関わる人や環境が変化すれば、私の中の自分も変化するのだと感じました。

絵画

辻 響己

≪At the end of prayer≫

 絵画の延長線として人の形態をした像を制作している。普段、自分自身や他者と接したり向き合っていく中で「自分は本当に自分自身であるのか」「目の前にいる他者が本当にその人そのものであるのか」が曖昧で捉えづらく疑ってしまうことが多々ある。また多くの人々と接する中で自らの弱さを隠す為に威圧的な態度を取ったり誤魔化そうといったしぐさを目にする度に逆に人の弱さを感じ、強い嫌悪感を持っている。しかし同時にその弱さが愛おしく思えたり弱さの部分が人を人たらしめているのだとも考えている。そしてその弱さは確かに自分の中にもあるものだと自覚している。人の本質とは何か、それは何処にあるのか。平面と立体の狭間の制作で不確かな人の存在を確かなものとして残し、人の持つ弱さのネガティブな面をポジティブなものへと作品として昇華していくことを目指している。